LUIDA
Large-scale Unified Infrastructure for Digital Assessments
メタバースプラットフォームにおける大規模VR/HCI実験フレームワーク
概要
LUIDAは、メタバースプラットフォーム上でVR実験を効率的に実施するための統合フレームワークです。
LUIDAを使うことで、メタバース上で誰もが気軽に実験に参加したり、研究者が効率よく実験を実施することができます。たとえば、これまで研究室に来ないと参加できなかった心理実験やVR体験の調査が、インターネットにつながるVR機器を使えば自宅からでも参加できるようになります。また、研究者にとっては、参加者の募集からデータの記録までを自動で行えるため、従来よりも短期間で大人数のデータを集めることが可能になります。この仕組みによって、従来は難しかった大規模な実験や多様な人々を対象とした調査が容易になることが期待されます。
LUIDAはクラスター メタバース研究所、東京大学 大学院情報理工学系研究科 葛岡・鳴海・谷川研究室、筑波大学 図書館情報メディア系 平木研究室によって共同で開発されました。
主な機能
実験実施者向けWebコンソール
実験情報の登録、アンケート内容の設定、収集したデータの一覧やダウンロードなど、実験を管理するためのWebインターフェースです。研究者はこのコンソールを通じて、実験の公開設定や参加条件の管理、リアルタイムでのデータ収集状況のモニタリングが可能です。
実験参加者向けメタバース空間
実験参加者向けの空間は、実験を探すための「参加者募集」と、実際に実験を行う「実験ワールド」の二つで構成されます。
- 参加者募集ワールド: 実験参加者はこのワールドに集い、掲示板にリストされた実験の中から興味のあるものを探して参加します。参加への心理的障壁を下げるため、人々が集まりやすい酒場のようなデザインが採用されています。
- 実験ワールド: 実験参加者が実験に参加すると、そのセッション専用の独立した実験ワールドが自動的に生成されます。これにより、他の参加者の影響を受けずに実験タスクを遂行できます。
ローコードな実験ワールド実装
実験実施者はUnityベースの「実装テンプレート」を用いて実験ワールドを構築します。このテンプレートは、変数の管理、ステートマシンによる実験フロー制御、データ収集形式の定義などをGUIベースで行えるインターフェースを提供し、プログラミング経験が少ない研究者でも複雑な実験を設計できます。
自動化されたデータ収集と管理
実験中、ユーザーアバターの位置・姿勢といった行動データをCluster Scriptの機能を使って記録することができます。また、研究者が定義したタスクスコアなどのカスタムデータも実験ワールド内で収集し、保存することができます。収集されたデータは、匿名性を確保した上でデータベースに保存され、Webコンソールからいつでも確認・ダウンロードが可能です。
LUIDAの利点・特徴
- 大規模・並列での実験実施: 各参加者に対して独立した実験ワールドのインスタンスが自動生成されるため、研究者が一人一人に対して個別に対応する必要がなく、多数のセッションを同時に実行できます。
- 効率的な参加者募集: メタバース内の専用ワールド「参加者募集ワールド」に参加可能な実験が一覧表示され、ユーザーが自由に参加できるため、募集の手間が大幅に削減されます。
研究者の利用手順
- ステップ1: Webコンソールでの実験登録
まずWebコンソールにアクセスし、実施したい実験の基本情報(タイトル、説明、参加要件、謝礼など)や同意書の文面を登録します。実験中に使用するアンケートも、この画面で設問や選択肢を設定します。 - ステップ2: 実装テンプレートによる実験ワールド開発
Unityベースで提供される「実装テンプレート」をダウンロードし、実験ワールドを制作します。テンプレートのGUIを使い、Webコンソールで登録したアンケートをIDで紐づけたり、データ記録のフォーマットを定義したり、ステートマシンを用いて実験の流れを自動化したりします。 - ステップ3: 実験ワールドのアップロードと公開
開発が完了した実験ワールドをclusterにアップロードします。その後、Webコンソールに戻り、実験の公開ステータスを「公開」に切り替えます。これにより、「参加者募集ワールド」の掲示板に自身の実験が表示され、参加者の募集が開始されます。 - ステップ4: データ収集と分析
実験が実施されると、データは自動的にサーバーに保存されます。研究者はWebコンソール上で収集状況をリアルタイムに確認できます。目標の参加者数が集まったら募集を停止し(Webコンソールで実験の公開ステータスを「テスト中」に切り替える)、収集したデータをダウンロードして分析に利用します。
制限事項
LUIDAには現状いくつかの既知の制約があります。これらの課題を解決するため、現在も引き続き研究開発に取り組んでいます。以下が現状の主な制限事項となります。
- プラットフォームへの依存: 現状、LUIDAフレームワークはメタバースプラットフォーム「cluster」上のみにおいて構築されているため、参加者はclusterのユーザー層に限られます。また、clusterの仕様による制約(例:フィンガートラッキングの非サポート)が存在します。
- ネットワーク遅延: ネットワークを介したシステムであるため、データが記録されたタイミングにばらつきが生じる可能性があり、ミリ秒単位の正確なタイミングが要求される実験にとってのリミテーションとなります。LUIDAはタイムスタンプを記録しているため、遅延の影響の特定は可能です。
- 参加者の環境差異: 参加者はそれぞれ異なるVRデバイスを使用するため、デバイスの性能差が実験結果に影響を与える可能性があります。
- セッションの中断と再開: 現在、参加者が実験ワールドから退出した場合のセッション復帰機能はサポートされていません。
注意事項
- LUIDAは試験的なフレームワークとして公開しており、安定したサービス稼働を保証いたしません。
- LUIDAを使用することによって、あるいは使用できないことによって発生した損失や損害に対して開発者ならびにその所属機関は一切責任を負いません。
- LUIDAは事前の通知なくサービスの仕様変更や更新、サービス提供の終了をすることがあります。開発者ならびにその所属機関は、これらを原因として発生した損失や損害について一切責任を負いません。
- LUIDAを利用して研究を実施する際は、法令および実施者が所属する機関の規定に従ってください。また、所属機関等の研究倫理審査を受けた上で、その旨と審査番号を参加者に告知してください。
- 参加者の個人情報の利用を伴う実験をされる場合には、参加者から許諾を得るなど、個人情報保護法その他の法令に従い、自己の責任においてご利用ください。
- その他のLUIDAを利用することで生じた問題については、cluster利用規約に準じることとします。
謝辞
LUIDAは、内閣府/JSTムーンショット型研究開発制度・目標1 「身体的共創を生み出すサイバネティック・アバター技術と社会基盤の開発」(Grant number JPMJMS2013)の一環として開発されました。